こんにちは、アイデア総研の大澤です。
「デザイン思考って最近よく聞くけど、うちの会社の研修に取り入れたらどうなるんだろう?」「実際のところ効果はあるの?」——人事担当者の方から、こういった相談をよく受けます。
デザイン思考は、シリコンバレーのデザインコンサルティングファームIDEOが体系化し、スタンフォード大学のd.schoolを通じて世界中に広まった問題解決の手法です。日本でも多くの大企業がデザイン思考研修を導入し始めていますが、「なんとなくやってみた」で終わってしまうケースも少なくありません。
本記事では、デザイン思考研修を成功させるための進め方・効果・企業導入のポイントについて、人事担当者向けに分かりやすく解説します。「どうすれば研修が現場に活きるか」という実践的な内容にたっぷり踏み込みますので、ぜひ最後までお読みください。

デザイン思考とは何か:ビジネスで使える思考法の基礎
デザイン思考が注目される背景
「デザイン思考」という言葉を聞いて、「デザイナーが使うものでしょ?」と思った方、実はそれが一番多い誤解です。デザイン思考の「デザイン」は、グラフィックやUIのデザインではありません。ここでのデザインとは「人間中心の問題解決プロセス」のことを指します。
なぜ今、デザイン思考の企業への導入が急速に広まっているのか。その背景には、ビジネス環境の大きな変化があります。従来の「課題が明確で、正解がある」問題はAIや自動化によって処理できるようになってきた一方で、「そもそも何が問題なのかが分からない」「ユーザーが本当に何を求めているのか見えない」という複雑な問題への対処が、企業の競争力を左右するようになっています。
そうした複雑な問題に対して有効なアプローチが、デザイン思考です。論理的分析だけでなく、ユーザーへの共感と実験的な試行錯誤を組み合わせることで、誰も想像しなかった革新的な解決策を生み出すことができます。
デザイン思考の5つのプロセス
デザイン思考のやり方の基本は、5つのプロセスで構成されています。これらは直線的に進むのではなく、行き来しながら繰り返す「反復的(イテラティブ)」なプロセスです。
①共感(Empathize):ユーザーの行動・思考・感情を深く観察・理解するフェーズ。インタビューや観察を通じて、ユーザーの「言葉にならないニーズ」を掘り起こします。
②定義(Define):共感フェーズで得た情報を整理し、「本当に解決すべき問題は何か」を明確にするフェーズ。「どうすれば〇〇できるか(How Might We)」という問いの形で課題を定義します。
③アイデア創出(Ideate):定義した課題に対して、できるだけ多様なアイデアを発散させるフェーズ。ブレインストーミングなどの手法を使い、「量」を重視してアイデアを出します。
④プロトタイプ(Prototype):アイデアを素早く形にするフェーズ。完成品を目指すのではなく、「テストできる最小限のもの」を作ることが重要です。
⑤テスト(Test):プロトタイプをユーザーに試してもらい、フィードバックを収集するフェーズ。結果を受けて、前のフェーズに戻り改善を繰り返します。
デザイン思考と従来の問題解決アプローチの違い
従来の企業における問題解決アプローチと、デザイン思考のやり方の最大の違いは、「スタート地点」にあります。
従来のアプローチは「仮説→検証」という流れで、最初に答えを想定してから検証を行います。これは正解が存在する問題には有効ですが、「そもそも何が問題かが分からない」状況には対応できません。
一方、デザイン思考は「ユーザーの理解→問題定義」という流れで、まず深く人を観察・理解することから始めます。この「共感」というスタート地点の違いが、革新的なアイデアを生み出す源泉になっています。
また、従来のアプローチは「失敗を避ける」文化を生みがちですが、デザイン思考は「早く失敗して素早く学ぶ(Fail Fast, Learn Fast)」を善しとします。この考え方の転換が、デザイン思考の企業導入の最大の壁でもあり、同時に最大の価値でもあります。
デザイン思考研修で得られる効果
個人レベルで期待できる変化
デザイン思考研修を通じて、参加者個人には以下のような変化が期待できます。
ユーザー視点の習慣化:「自分がどう思うか」ではなく「ユーザーがどう感じるか」という視点で物事を考えるクセがつきます。この視点の転換は、業種・職種を問わず、あらゆる業務に応用できます。
曖昧な問題への耐性が上がる:デザイン思考は「正解のない問い」に向き合うプロセスです。研修を通じて、正解が見えない状況でも前に進める「あいまい耐性」が鍛えられます。これはVUCAと呼ばれる現代のビジネス環境において非常に重要な能力です。
プロトタイプ思考の獲得:「完璧なものを作ってから出す」ではなく「小さく作って早くテストする」というマインドセットが身につきます。これにより、アイデアを机上で止めず、実際に動かす行動力が高まります。
チーム・組織レベルで期待できる変化
デザイン思考研修の効果は、個人にとどまらずチーム・組織レベルにも及びます。
多様な視点の活用:デザイン思考は、異なる専門性・バックグラウンドを持つメンバーが協力して取り組む際に特に大きな効果を発揮します。研修を通じて「多様な視点を持ち寄る」という文化が醸成されます。
「失敗を歓迎する」文化への転換:従来の「失敗は許されない」という組織文化を変え、小さな失敗から学ぶことを評価する文化が生まれます。これが、組織全体のイノベーション力の底上げにつながります。
顧客中心主義の浸透:営業・マーケティングだけでなく、製造・経理・人事など、あらゆる部門のメンバーが「ユーザー(顧客・社内顧客)視点」を持つようになります。これが組織全体のサービス品質向上を生み出します。
事業・製品開発への具体的な効果
デザイン思考の企業導入の成果として、事業・製品開発への影響が最も目に見えやすい効果として現れます。
まず、顧客インサイトの深掘りによる「刺さる商品・サービス」の開発です。表面的なニーズではなく、本質的な欲求や感情を理解した上で開発された製品は、市場での差別化につながります。
次に、開発リードタイムの短縮です。「完璧な計画」を立ててから動く従来型の開発と比べ、プロトタイプ→テスト→改善のサイクルを素早く回すことで、無駄な開発コストを削減できます。
そして、社内横断プロジェクトの活性化です。デザイン思考研修を通じて共通言語ができると、部門を超えたコラボレーションが生まれやすくなります。これが新規事業開発や業務改善の加速につながります。
デザイン思考研修の進め方:ステップ別詳細解説
共感フェーズ:ユーザーを深く理解する実践ワーク
デザイン思考のやり方の中でも、研修で最も力を入れて取り組むべきが「共感」フェーズです。多くの研修でここが表面的な理解にとどまりがちなので、特に詳しく解説します。
共感フェーズで使われる主な手法は以下の通りです。
共感インタビュー:ユーザーに直接インタビューし、表面的な「何が欲しいか」だけでなく、「なぜそう感じるのか」「どんな状況でそう思ったのか」という背景まで掘り下げます。「なぜ(Why)」を5回繰り返す「5 Whys」のアプローチが有効です。
シャドーイング(観察):ユーザーの行動を観察し、「言葉にならない行動パターン」を発見します。ユーザーは自分のニーズを言語化できないことが多いため、観察から発見できる情報は非常に価値があります。
エンパシーマップの作成:インタビューや観察から得た情報を「言っていること・考えていること・感じていること・やっていること」の4象限に整理するツールです。研修ワークとして取り組むことで、ユーザーへの理解を可視化できます。
定義〜アイデア創出:問いを立ててアイデアを広げる
共感フェーズで収集した情報を整理し、「本当に解決すべき問題」を定義するのが定義フェーズです。ここでのポイントは、問題を「ソリューション(解決策)」ではなく「ニーズや課題」の形で言語化することです。
「どうすれば〇〇できるか(How Might We:HMW)」という問いの形は、デザイン思考研修で最も頻繁に使われる技法の一つです。「高齢者のスマホ操作が難しい」という問題を「どうすれば高齢者がスマホをもっと楽しく使えるか」と言い換えるだけで、発想の幅が一気に広がります。
アイデア創出フェーズでは、ブレインストーミングをはじめ様々な発散思考ツールを使います。研修では「評価しない・量を重視する」というブレストのルールを徹底し、奇抜なアイデアも歓迎する雰囲気を作ることが重要です。
プロトタイプ〜テスト:素早く形にして学ぶ
プロトタイプフェーズは、デザイン思考のやり方の中で最もハードルが高く感じられるフェーズです。「まだアイデアが固まっていない」「完成度が低いものを見せるのは恥ずかしい」という心理的障壁を乗り越えることが、研修の重要な学びの一つになります。
プロトタイプには、高価な素材や時間をかける必要はありません。付箋紙・段ボール・スケッチ・ロールプレイ(演じる)など、ローコストで素早く形にできるものが研修では最適です。大切なのは「完璧さ」より「テストできる状態」であることです。
テストフェーズでは、プロトタイプをユーザー役の参加者に試してもらい、正直なフィードバックを収集します。ここで得られた気づきを持って共感フェーズに戻り、サイクルを回していきます。このイテレーション(繰り返し改善)こそが、デザイン思考の本質です。

企業でのデザイン思考研修:導入成功のポイント
研修設計でよくある失敗と対策
デザイン思考の企業導入にあたって、研修設計の段階でつまずくケースがよく見られます。代表的な失敗パターンと対策をご紹介します。
失敗①:一度研修をやっただけで終わった
デザイン思考は一度学んで終わりではなく、繰り返し実践することで習得できるスキルです。「1日の研修で完結」という設計は、参加者が翌日から使いこなせるという過剰な期待を生みます。基礎研修→フォローアップ→実践プロジェクトというサイクルを設計しましょう。
失敗②:現実の業務と切り離したケーススタディだけで終わった
研修で扱うテーマが「架空の事例」だけだと、「面白かったけど実際の業務に使えない」という評価になりがちです。受講者の実際の業務課題をテーマにしたワークを組み込むことで、研修後の行動変容につながります。
失敗③:共感フェーズを飛ばしてアイデア出しから始めた
時間の都合でユーザーインタビューなどを省略し、いきなりアイデア出しから始めるケースがあります。これでは表面的なアイデアしか生まれず、デザイン思考の真価が発揮されません。短い時間でも「共感」のプロセスは必ず含めましょう。
継続的な学習サイクルの作り方
デザイン思考研修を一過性のイベントで終わらせないために、研修後の継続的な学習サイクルを設計することが重要です。
研修後の実践を支援するためのいくつかの仕組みをご紹介します。まず、「デザイン思考チャレンジ」として、研修後の30日間に現場の課題でデザイン思考を実践する小さな課題を出すことが効果的です。簡単なユーザーインタビューを1件実施する、アイデアのプロトタイプを紙で作ってみるなど、低いハードルから始めましょう。
次に、「デザイン思考コミュニティ」の形成です。研修参加者同士が実践の悩みや成功事例を共有できる場(社内Slackチャンネルや月次の会など)を設けると、学びが継続しやすくなります。
そして、上位管理職の巻き込みも欠かせません。デザイン思考の企業への定着には、トップダウンの後押しが不可欠です。管理職自身がデザイン思考を理解し、部下の実践を奨励・評価する文化が組織に浸透することで、研修効果が倍増します。
人事担当者が押さえるべき研修プロバイダーの選び方
デザイン思考研修のプロバイダー(外部講師・研修会社)を選ぶ際に、人事担当者が確認すべきポイントをご紹介します。
実践的なワーク重視か確認する:デザイン思考は「体験して身につける」ものです。講義の時間が長く、ワークの時間が少ないプロバイダーは避けましょう。ワーク(体験)の比率が全体の50〜70%以上であることが理想です。
カスタマイズ対応力を確認する:既製のプログラムを売るだけでなく、自社の業種・課題・受講者層に合わせたカスタマイズができるプロバイダーを選びましょう。事前ヒアリングをしっかり行ってくれるかどうかが判断基準の一つです。
研修後のフォローアップがあるか確認する:一回限りの研修だけでなく、フォローアップや継続支援を提供してくれるプロバイダーとの長期的な関係構築が、デザイン思考研修の効果を最大化します。
デザイン思考研修の実践ワーク:すぐに使えるアクティビティ集
「共感」を体感するワーク:観察と傾聴の練習
デザイン思考研修の序盤に取り入れると効果的なのが、「観察と傾聴」を体感するワークです。日常生活の中でも実践できる方法なので、研修の翌日から使えるものばかりです。
ワーク①:1分間インタビュー
2人ペアになり、「最近の仕事で一番困っていること」をテーマに1分間インタビューします。聞き手は「なぜ?」「どんな状況で?」「そのときどんな気持ちでしたか?」という質問を積極的に使います。このワークを通じて「表面的な回答の裏にある本音を引き出す」というインタビュースキルが磨かれます。
ワーク②:1日観察日記
研修後の1週間、自分が使っているアプリ・道具・サービスで「なんとなく不便だな」と感じた瞬間をメモしておきます。次回の研修やフォローアップで発表することで、「日常の中にデザイン思考の種がある」という気づきが生まれます。
ワーク③:エンパシーマップの作成
ペアでインタビューした内容を「言っていること・考えていること・感じていること・やっていること」の4象限のマップに貼り出します。付箋を使ってグループで整理するこのワークは、デザイン思考のやり方の中でも特に人気の高いアクティビティです。
「アイデア創出」を加速させるワーク:発散思考トレーニング
デザイン思考のアイデア創出フェーズで活用できるワークをご紹介します。これらはデザイン思考の企業の研修プログラムで定番となっている手法です。
ブレインライティング:ブレインストーミングの「書く版」です。参加者全員が自分のシートにアイデアを3つ書き、隣の人に回します。受け取ったシートのアイデアを見てインスパイアされた新しいアイデアをさらに3つ書きます。これを繰り返すことで、発言が苦手な人も平等に参加でき、また他者のアイデアから触発されるという相乗効果が生まれます。
SCAMPER法:既存のアイデアをさまざまな角度から変形させる手法です。S(代替する)・C(組み合わせる)・A(応用する)・M(修正・拡大・縮小)・P(他用途に転用)・E(取り除く)・R(逆転・再配置)の頭文字を取っています。一つのアイデアに対してこれらの問いを順番にかけることで、アイデアのバリエーションを爆発的に増やせます。
「もし〇〇だったら」ワーク:「もし予算が10倍あったら?」「もし逆に予算ゼロだったら?」「もしユーザーが子どもだったら?」という「もし〇〇だったら」という問いを立て、制約や前提を変えることで新しい視点からアイデアを出します。制約を外す・逆に設けることで、固定観念を崩すきっかけになります。
「プロトタイプ→テスト」ワーク:素早く形にして学ぶ体験
プロトタイプとテストのフェーズは、デザイン思考研修の中で最も「やってみた感」が生まれる楽しいパートです。以下のワークで「完成度より速度」のマインドセットを体感させましょう。
マシュマロチャレンジ:スパゲッティ20本・テープ・ひも・マシュマロを使い、20分以内でできるだけ高いタワーを作るという有名なチームワークゲームです。実はこのゲームは、プロトタイプ思考(早く試して学ぶ)の体験として非常に優れています。成功するチームの共通点は「早い段階でマシュマロをのせて試す」ことです。
ペーパープロトタイピング:アプリやWebサービスのアイデアを、紙とペンで「画面イメージ」として描き起こすワークです。完成度は問いません。大事なのは、ユーザー役の参加者に「紙の画面」を見せて操作してもらい、どこで迷うかを観察すること。デジタルの知識がなくても誰でも参加でき、10〜15分で「テストできる状態」を作れます。
アイデア総研について

アイデア総研は、「アイデアを生み出す力」を組織と個人に根付かせることをミッションとした、アイデア発想の専門家集団です。
代表の大澤は、世界累計5億個を超える大ヒット玩具「ベイブレード」、金融教育玩具「人生銀行」、子どもの創造性を育む「夢見工房」などの開発に携わってきたプロダクトクリエイターです。「遊び」と「創造」が命のおもちゃ業界で培ったアイデア発想の技術を、ビジネスの現場に届けることを使命としています。
これまでに5,000人以上への研修・講義を実施してきた実績を持ち、大阪公立大学・千葉大学・筑波大学・法政大学など、国内の有力大学でも講義を担当しています。著書『おもちゃ流企画術』(実業之日本社)は、遊びの発想からビジネスアイデアを生み出すための実践的な一冊として好評を博しています。
研修は対面・オンライン・ハイブリッドのいずれにも対応しており、全国どこでも実施可能です。1時間のコンパクトな体験型ワークショップから、6時間の本格的な研修プログラムまで、貴社の目的・参加者・予算に合わせて柔軟にカスタマイズいたします。
デザイン思考研修やデザイン思考の企業導入についてのご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

まとめ
いかがでしたか。今回はデザイン思考研修の効果・進め方・企業導入のポイントについて、人事担当者向けに詳しくお伝えしました。
改めてポイントを整理すると、以下の通りです。
- デザイン思考は「ユーザー中心の問題解決プロセス」であり、すべての業種・職種に応用できる
- 共感→定義→アイデア創出→プロトタイプ→テストの5プロセスを反復的に回すことが本質
- 個人レベル(ユーザー視点・あいまい耐性)とチームレベル(多様性活用・失敗歓迎文化)の両方に効果がある
- 研修設計の失敗(一回きり・現実業務と切り離し・共感スキップ)を事前に把握して対策する
- 継続的な学習サイクル(実践課題・コミュニティ・管理職の巻き込み)を設計することで効果が持続する
デザイン思考のやり方を一度学んで終わりにするのではなく、組織の文化として根付かせることを目指して、ぜひ研修設計に取り組んでみてください。最初の一歩は、小さなワークショップからで十分です。