こんにちは、アイデア総研の大澤です。
「同じ研修を受けても、学びが深い人とそうでない人がいる」──研修担当者なら誰もが感じたことのある現象です。この差の大きな原因の一つが「学習スタイルの違い」です。人はそれぞれ情報の受け取り方・処理の仕方に好みがあり、自分に合った方法で学ぶときに最も効果的に学習できます。研修 学習スタイルというキーワードで検索される方が増えているように、参加者の多様な学習スタイルに対応した研修設計が、研修効果を最大化する鍵となっています。
この記事では、研修の学習スタイルとは何かを代表的なモデルで解説し、4つのタイプ別に研修設計を工夫する方法をご紹介します。VARKモデル、コルブの経験学習サイクル、ハニー&マンフォードの学習スタイルモデルなど、複数の視点から学習スタイルを理解することで、参加者全員が学びやすい研修を設計できるようになります。

学習スタイルとは何か|人によって異なる情報処理の好みを理解する
学習スタイルの定義と重要性
学習スタイルとは、個人が情報を最も効果的に受け取り・処理し・記憶するための、その人固有の傾向・好みのことです。同じ授業や研修を受けても「視覚的な図やイラストがあると理解しやすい人」「説明を耳で聞く方がよく頭に入る人」「実際にやってみないと身につかない人」「まずテキストをじっくり読みたい人」など、学習の好みは多様です。この違いを無視して一律の研修設計をすると、一部の参加者には最適でも、他の参加者には学びにくい環境になってしまいます。
学習スタイルの概念は1970年代以降に教育心理学者たちによって体系化されました。現在もさまざまなモデルが提唱されており、研修設計の現場では主にVARKモデルとハニー&マンフォードモデルが活用されています。全員に「合う」研修を設計することは難しいですが、多様な学習スタイルを「考慮した」研修設計をすることで、参加者全体の学習効果を底上げできます。研修担当者として学習スタイルの概念を理解することは、研修効果向上のための重要な第一歩です。
VARKモデル:4つの学習スタイルとは
VARKモデルは、1987年にニール・フレミング氏とコリン・ミルズ氏が提唱した学習スタイルのモデルです。「Visual(視覚型)」「Auditory(聴覚型)」「Reading/Writing(読み書き型)」「Kinesthetic(体験型)」の4つに学習スタイルを分類します。
Visual(視覚型)は図・グラフ・図表・カラーコードなどの視覚的情報から学ぶ。Auditory(聴覚型)は講義・議論・口頭説明・音楽から学ぶ。Reading/Writing(読み書き型)はテキスト・書籍・ノートからの読書・書き込みで学ぶ。Kinesthetic(体験型)は実際に経験・体験・実践することで学ぶ、という特徴があります。多くの人は一つのスタイルだけでなく複数のスタイルを組み合わせており(マルチモーダル)、自分の強いスタイルを把握することで学習効率が上がります。VARKモデルはシンプルで実践的なため、研修設計に取り入れやすいモデルです。
ハニー&マンフォードの4学習スタイル
ハニー(Peter Honey)とマンフォード(Alan Mumford)が提唱した学習スタイルモデルは、コルブの経験学習サイクルを基にした4スタイルで構成されます。活動家(Activist):新しい経験に積極的、実践から学ぶことが好き。熟考家(Reflector):じっくり観察・考察してから行動する。理論家(Theorist):論理・概念・モデルに基づいて理解することを好む。実用家(Pragmatist):実際に試してみることを重視し、実務応用を好む。
この4スタイルは、コルブの「具体的経験→内省的観察→抽象的概念化→積極的実験」というサイクルの各段階に対応しています。研修の中で4つの段階を設けることで、どの学習スタイルの参加者にも「自分の強み」が活かせる瞬間が生まれます。研修設計において、このサイクルを意識することで自然とすべての学習スタイルに対応できます。
VARKモデルの各タイプに合わせた研修設計の方法
視覚型・聴覚型参加者への対応方法
視覚型(Visual)の参加者には、図・グラフ・フローチャート・マインドマップ・ホワイトボードの板書など、視覚的な情報提供が効果的です。研修スライドは文字だけでなく、図解やイラストを多用します。グループワークでは大きな紙に図を書きながら議論する「ビジュアルファシリテーション」が有効です。色分けや記号を使って情報を整理することも、視覚型の参加者の理解を助けます。
聴覚型(Auditory)の参加者には、講師の説明、グループディスカッション、ペアでの対話、口頭でのフィードバックが学びにつながります。「2人組で内容を互いに説明し合う(ティーチング・バック)」というアクティビティは、聴覚型の学習者が自分の理解を整理するのに非常に有効です。また、「声に出してまとめる」習慣を参加者に促すことで、聴覚型の強みが活かせます。研修に音楽・リズム・韻を踏んだ表現を取り入れることも有効です。多様な対話の機会を研修に組み込むことで、聴覚型の参加者の学習効果が高まります。
読み書き型・体験型参加者への対応方法
読み書き型(Reading/Writing)の参加者は、テキスト・資料・ハンドアウトへの書き込みを通じて学びます。研修前の事前資料の配布、研修中のノートテイキングの時間、研修後のまとめレポートの作成などが有効です。「学んだことを自分の言葉で書き直す」というリフレクションシートは、読み書き型の参加者の学習定着を助けます。また、研修後に参加者が自分でサマリーを書くことを促すことで、学習内容の定着率が大幅に向上します。
体験型(Kinesthetic)の参加者は、「実際にやってみる」ことから学びます。ロールプレイ、ケーススタディ、シミュレーション、グループワークなど、体験と実践を伴う研修設計が不可欠です。「説明を聞く」だけではなく「実際にやってみる」時間を研修の中に多く組み込むことで、体験型の参加者の理解と定着が大幅に向上します。現場の実例・具体的な事例を豊富に取り入れ、「これはどんな場面で使えるか?」を考えさせる場面を多く設けることも効果的です。体験型参加者が多いチームには、グループワーク中心の設計が特に有効です。

研修に多様な学習スタイルを取り入れる実践的な設計法
ユニバーサルデザイン的な研修設計
研修参加者全員の学習スタイルを個別に把握して対応することは現実的に難しいため、「すべての学習スタイルの要素を研修に組み込む」というユニバーサルデザインのアプローチが実践的です。具体的には、①説明(聴覚型)→②図解・スライド提示(視覚型)→③資料・テキスト参照(読み書き型)→④グループワーク・実践演習(体験型)という4ステップのサイクルを1単元の中に組み込みます。
このサイクルを繰り返すことで、すべての学習スタイルの参加者に「自分の得意な学習方法」が当たる機会が生まれます。研修全体を通じて視覚・聴覚・読み書き・体験の要素がバランスよく含まれることで、参加者の多様な学習スタイルに「自然に対応」する設計が実現できます。この設計は単一の学習スタイルに特化するより効果的で、実施コストも低いため実践的なアプローチです。
事前の学習スタイル診断の活用
研修前に参加者の学習スタイルを把握することで、より効果的な研修設計が可能になります。VARK診断(オンラインで無料で実施できる)やハニー&マンフォードの学習スタイル質問紙を事前に実施し、参加者のスタイル傾向を把握します。「この研修の参加者は体験型が多い」「理論家タイプが多い」などの傾向がわかることで、研修設計の重点を調整できます。
また、参加者が自分の学習スタイルを知ることは、研修効果の向上だけでなく「自己学習力の向上」にもつながります。「自分は視覚型なので、学習内容を図にまとめる習慣をつけよう」「自分は体験型だから、新しい知識はすぐ実践で試してみよう」という自己理解が生まれることで、研修後の自律的な学習が促進されます。学習スタイル診断を研修の一部として組み込むことで、参加者の「学び方を学ぶ」という重要なメタ学習体験を提供できます。
ブレンデッドラーニングで多様なスタイルに対応する
eラーニングと対面研修を組み合わせたブレンデッドラーニング(Blended Learning)は、多様な学習スタイルへの対応に特に効果的です。eラーニングでは読み書き型・視覚型の参加者が自分のペースで映像・テキストを学習でき、対面研修では聴覚型・体験型の参加者がグループワーク・議論・実践で深く学べます。両者を組み合わせることで、どの学習スタイルの参加者も自分に合った方法で学べる環境が整います。
また、対面研修の前にeラーニングで基礎知識を習得する「フリップドクラスルーム(反転授業)」モデルを取り入れることで、対面時間をより価値の高い体験・討議・実践に充てられます。テクノロジーと人間的なインタラクションを組み合わせたブレンデッドラーニングが、参加者の多様な学習スタイルに対応しながら、研修効果を最大化する現代的なアプローチです。
コルブの経験学習サイクルと研修設計への応用
コルブの経験学習理論とは何か
デービッド・コルブ氏が1984年に提唱した経験学習サイクル(Experiential Learning Cycle)は、「具体的経験→内省的観察→抽象的概念化→積極的実験」という4段階のサイクルで学習が進むという理論です。「具体的経験」:実際の体験・経験をする。「内省的観察」:その体験を振り返り、様々な角度から観察する。「抽象的概念化」:振り返りから得た洞察を一般化・概念化・理論化する。「積極的実験」:概念化した考えを新しい状況に適用して試す。このサイクルを繰り返すことで学習が深まるとコルブ氏は提唱しました。
このコルブのサイクルを研修設計に組み込むと、「体験ワーク(具体的経験)→グループ振り返り(内省的観察)→講師解説・フレームワーク提示(抽象的概念化)→職場での実践計画(積極的実験)」という流れが生まれます。単に「教える→覚える」ではなく、体験と振り返りを通じた深い学習が実現します。特に体験型学習(Kinesthetic)が好む参加者に強く響くアプローチですが、全ての学習スタイルの要素が含まれているため、多様な参加者に対応しやすいモデルです。
研修にコルブのサイクルを取り入れる具体例
コルブの経験学習サイクルを研修に取り入れる具体的な方法をご説明します。たとえばプレゼンテーション力向上研修の場合、①まず参加者に「3分間のミニプレゼン」を実施させます(具体的経験)。②グループで「良かった点・改善できる点」を話し合います(内省的観察)。③効果的なプレゼンテーションの原則・フレームワークを講師が解説します(抽象的概念化)。④解説を踏まえて「改善版ミニプレゼン」を実施します(積極的実験)。
この流れにより、「説明を聞くだけ」の研修と比べて圧倒的に高い学習定着率が実現します。「やってみる→振り返る→理解する→また試す」というサイクルが、参加者の深い気づきと行動変容を促します。特に重要なのは「内省的観察」のフェーズで、参加者が自分の経験を言語化・意味づけする時間を十分に確保することです。この振り返りの質が、研修の学習効果を大きく左右します。
学習スタイルを活かした研修設計の実践的なコツ
参加者のエンゲージメントを高める多様な活動の組み合わせ
多様な学習スタイルに対応する研修を設計する際、「アクティビティの多様性」が鍵になります。一つの研修の中に、以下の要素をバランス良く組み込むことをおすすめします。①個人思考の時間(読み書き型・熟考家向け)、②グループディスカッション(聴覚型・活動家向け)、③視覚的な整理・板書(視覚型向け)、④ロールプレイ・実践演習(体験型・実用家向け)、⑤振り返りシートの記入(読み書き型・熟考家向け)。
これらを交互に取り入れることで、「この研修は自分に合っている」と感じる時間がどの学習スタイルの参加者にも必ずある状態が生まれます。単調なアクティビティの繰り返しは、特定の学習スタイルの参加者を疲弊させ、他の参加者を退屈させます。30〜45分ごとにアクティビティの種類を変えるという設計を心がけることで、参加者の集中力とエンゲージメントを長時間維持できます。
オンライン研修での学習スタイル対応の工夫
コロナ禍以降、オンライン研修が普及しましたが、画面越しの研修では参加者のエンゲージメントを維持するのが特に難しいという課題があります。オンライン研修でも多様な学習スタイルに対応するためには、以下の工夫が有効です。視覚型:スライドの図解・アニメーションを充実させ、オンラインホワイトボード(Miro等)を活用する。聴覚型:ブレイクアウトルームでの小グループ対話の機会を多く設ける。読み書き型:チャット機能での書き込みやオンラインドキュメントへの共同編集を取り入れる。体験型:演習・ロールプレイをオンラインでも実施する。
特にオンライン研修では「受動的な参加(見ているだけ)」になりやすいため、体験型・活動家タイプの参加者のエンゲージメントが低下しやすい傾向があります。15〜20分ごとにインタラクティブな活動(投票・クイズ・チャット・ブレイクアウト)を挟むことで、すべての学習スタイルの参加者がアクティブに関わる状態を維持できます。
学習スタイルと個人差を尊重する研修文化の醸成
研修設計の工夫と並んで重要なのが、「学習の多様性を尊重する文化」を組織内に育てることです。「おとなしい人は積極性がない」「すぐに実践しない人はやる気がない」という誤解が組織内にあると、熟考家や理論家タイプの参加者が学習スタイルを発揮しにくくなります。学習スタイルには優劣がないことを組織全体で理解し、それぞれの強みを活かすことが大切です。
研修のファシリテーターとして、参加者の多様な学習スタイルを受け入れ、「異なるアプローチで学んでいても、それぞれが正しい」というメッセージを伝えることが重要です。「どんな学び方でも良い、大切なのは何かを持ち帰ること」というメッセージが心理的安全性を高め、参加者が自分のスタイルで安心して学べる環境を作ります。これが学習効果の向上と、職場での実践意欲の向上につながります。
学習スタイルと研修アクセシビリティの観点
近年、研修のアクセシビリティという観点から学習スタイルへの配慮が注目されています。神経多様性(ニューロダイバーシティ)の観点では、ADHD・ASD・ディスレクシアなどの特性を持つ方が職場に増えており、彼らの学習スタイルや認知の特性に配慮した研修設計が求められています。たとえばADHDの傾向がある参加者は、短い単位のアクティビティの切り替えが多い研修が学びやすく、読み書きが苦手な参加者には音声・動画・口頭確認を中心とした設計が効果的です。
研修のアクセシビリティを高めることは、特定の参加者への「配慮」ではなく、すべての参加者にとって学びやすい環境を作るという意味で研修全体の品質向上につながります。多様な学習スタイルへの配慮は、企業のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みの一部でもあります。すべての参加者が自分のスタイルで学べる研修を提供することが、組織の人材育成力を強化し、多様な人材の活躍推進につながります。

まとめ
いかがでしたか。研修の学習スタイルとは、人それぞれが持つ情報の受け取り方・処理の仕方の傾向を指します。VARKモデルの4タイプ(視覚型・聴覚型・読み書き型・体験型)やハニー&マンフォードの4スタイル(活動家・熟考家・理論家・実用家)を理解することで、多様な参加者に対応した研修設計が可能になります。
「すべての学習スタイルに対応した要素を研修に組み込む」というユニバーサルデザインのアプローチを採用することで、参加者全員の学習効果を底上げできます。学習スタイルを考慮した研修設計は、研修投資の効果を最大化するための重要な視点です。ぜひ次回の研修設計に取り入れてみてください。
アイデア総研について

アイデア総研は、ベイブレード(世界累計5億個販売)・人生銀行・夢見工房を開発したおもちゃ開発者・大澤一彦が主宰する創造性開発の専門機関です。学習スタイルを考慮した研修設計から実施まで、これまで5,000人以上の方に研修を提供してきました。大阪公立大学・千葉大学・筑波大学・法政大学での講義実績があり、実践的な人材育成教育を提供しています。著書に『おもちゃ流企画術』(実業之日本社)があります。対面・オンライン・ハイブリッドに対応し、全国どこへでも伺います。1時間〜6時間のプログラムをご用意しておりますので、お気軽にご相談ください。