アイデア発想の記事

デザイン思考とは|HMW・MVPを使った問題解決の進め方

こんにちは、アイデア総研の大澤です。

「解決策を考えても、なぜかユーザーに刺さらない」「アイデアはたくさん出るのに、形にならない」——こんな悩みを持つビジネスパーソンに注目していただきたいのが「デザイン思考」です。デザイン思考とは、人間中心の視点で問題を定義し、試作と検証を繰り返しながら革新的な解決策を生み出すプロセスのことです。

本記事では、デザイン思考の基本的な考え方・5つのプロセス・HMW(How Might We)とMVP(最小実行可能製品)という実践ツールの使い方まで、研修担当者とビジネスパーソンに向けて体系的に解説します。

デザイン思考とはのイメージ

デザイン思考とは何か?

デザイン思考の定義と歴史

デザイン思考(Design Thinking)とは、スタンフォード大学のd.schoolが体系化した問題解決のアプローチです。もともとは製品デザインの世界で培われた思考法ですが、現在はビジネス・教育・行政・医療など様々な領域で活用されています。

デザイン思考の核心にあるのは「人間中心設計(Human-Centered Design)」です。解決策を考える前に、まず「誰のどんな問題か」を深く理解することを最優先にします。数字やデータだけでなく、実際の人々の行動・感情・文脈を観察・共感することから始めるのがデザイン思考プロセスの特徴です。

日本でも、トヨタ・ソフトバンク・富士フイルムなど多くの大企業がデザイン思考を研修やイノベーション活動に取り入れています。IDEO社のティム・ブラウン、スタンフォードd.schoolのデイヴィッド・ケリーらによって普及したこのアプローチは、21世紀のビジネスを変える最重要ツールのひとつとして世界中で注目されています。

デザイン思考が求められる背景

従来の問題解決アプローチ(分析→計画→実行)は、問題が明確で環境が安定している場合には有効ですが、変化の速い現代では限界があります。デザイン思考は、問題自体が不明確・解決策が存在しない・ユーザーニーズが変化し続ける環境で特に威力を発揮します

また、AIが多くの分析・実行業務を担うようになる時代において、「人間ならではの共感力・創造力・試行錯誤」を活かしたデザイン思考プロセスは、ますます重要になっています。「正解を探す」から「正解をつくる」へ——デザイン思考はそのための実践的な思考法です。

デザイン思考と従来の問題解決の違い

従来の問題解決:問題を定義→原因を分析→解決策を立案→実行→評価。デザイン思考プロセス:共感→定義→発想→試作→テスト(この循環を繰り返す)。

最大の違いは、デザイン思考が「失敗を前提とした反復的プロセス」である点です。最初から完璧な解決策を目指すのではなく、素早く試作し・早く失敗し・そこから学ぶというサイクルを回すことで、徐々に最適解に近づきます。「早く小さく失敗する」という発想が、デザイン思考の真髄です。

デザイン思考の5つのプロセス

ステップ1:共感(Empathize)

デザイン思考プロセスの出発点は「共感」です。解決しようとしている問題に関わる人々を深く理解することが、すべての出発点になります。インタビュー・観察・体験——様々な方法でユーザーの行動・思考・感情・価値観を探ります。

共感のポイントは、自分の思い込みや先入観を一旦手放し、ユーザーの世界をそのまま受け取ることです。「こんな機能が欲しいに違いない」という思い込みではなく、「この人は実際どんな状況でどんな感情を持っているか」を丁寧に探ります。優れたデザイン思考実践者は、徹底的な観察と傾聴を通じて、ユーザー自身も言語化できていない「潜在ニーズ」を発見します。

ステップ2:定義(Define)

共感で得た情報を統合し、「本当に解決すべき問題(=課題の本質)」を定義します。ここで重要なのが「ポイント・オブ・ビュー(POV)」——「○○という状況にある人が、△△を必要としているのは、◇◇だからだ」という形で課題を言語化する手法です。

問題定義の質がデザイン思考プロセス全体の成否を左右します。正しく問題が定義されると、適切な解決策のアイデアが自然と湧き出やすくなります。逆に、問題定義がズレていると、いくら優れたアイデアを出しても「本当に求められるもの」にはなりません。

ステップ3:発想(Ideate)

定義された問題に対して、できるだけ多様なアイデアを生み出します。ブレインストーミング・KJ法・SCAMPER法など様々な発想法を組み合わせ、「量よりも多様性」を意識してアイデアを展開します。

この段階でよく使われるのがHMW(How Might We=どうすれば私たちは〜できるか)という問いの立て方です。「どうすれば顧客がもっと使いやすくなるか」「どうすれば社員が自発的に提案するようになるか」という形で問いを設定することで、制約を超えた発想が促されます。HMWはデザイン思考の強力な実践ツールです。

ステップ4:試作(Prototype)

発想段階で生まれたアイデアを素早く形にします。完璧なものを作る必要はありません。紙のモックアップ・ロールプレイング・簡単なデジタルモック——「テストできる最低限のもの」を素早く作ることがデザイン思考プロセスの真髄です。

ここで重要な概念がMVP(Minimum Viable Product=最小実行可能製品)です。MVPとは、検証したい仮説を確かめるために必要な最小限の機能を持った試作品のことです。「完璧な製品を時間をかけて作る」のではなく、「素早くMVPを作って学ぶ」というサイクルが、デザイン思考の速度と質を高めます。

ステップ5:テスト(Test)

作ったプロトタイプをユーザーに試してもらい、フィードバックを得ます。ここでの目的は「正解を探す」ことではなく「学びを得る」ことです。うまくいかなかった部分こそが、次の改善につながる貴重な情報です。

テストの結果は定義・発想・試作のどの段階にでも立ち返るきっかけになります。テストで「そもそも問題定義が間違っていた」ことがわかれば、共感・定義からやり直します。この反復性こそがデザイン思考プロセスの強みです。一度で正解を出そうとせず、サイクルを素早く回すことが成功の秘訣です。

デザイン思考とはのイメージ

HMWとMVPの具体的な使い方

HMWで問いを磨く実践法

HMW(How Might We)は、デザイン思考の定義フェーズから発想フェーズへの橋渡しとなる強力なツールです。問題定義を「どうすれば私たちは〜できるか」という問いに変換することで、チームの創造性が解放されます。

HMWのポイントは「広すぎず狭すぎない問い」を設定することです。「どうすれば顧客を満足させられるか」は広すぎ、「どうすれば3分以内にログインできるか」は狭すぎます。「どうすれば初めてのユーザーが迷わず最初の購入ができるか」というように、方向性を示しながらも多様な解決策を許容する問いが理想的です。HMWをチームで複数作り、最も解決価値の高いものを選ぶプロセスも、対話とチームビルディングの機会になります。

MVPで早く学ぶ方法

MVPの考え方の本質は「完璧にしてから出すのではなく、出してから完璧にする」というスタンスです。リーン・スタートアップでも重視されるMVPは、デザイン思考プロセスの試作・テストフェーズにおける核心的なツールです。

職場でのMVP活用例として、新しい研修プログラムなら「まず1時間のパイロット版を少人数で試す」、新しい業務フローなら「一部のチームだけで2週間実験する」——こうした小さなMVPを素早く作って試すことで、大規模展開前にリスクを低減できます。失敗のコストを小さくすることが、挑戦を増やし、デザイン思考文化を育てます。

実践例:ベイブレード開発とデザイン思考

私がベイブレードを開発したプロセスは、まさにデザイン思考そのものでした。「すげゴマ」で失敗(テスト→学び)、「バトルトップ」に改善するも1種類では売れないという課題を発見(定義)、「バトルできる・改造できる」という2要素を組み合わせるアイデアを生み出し(発想)、試作品を作ってテスト(試作・テスト)——このサイクルを繰り返してベイブレードが完成しました。一発で正解を出したのではなく、失敗を分析し仮説を立てて試すデザイン思考プロセスの繰り返しがヒットにつながりました。

デザイン思考を職場に取り入れる方法

チームでデザイン思考を実践する

デザイン思考は個人でも実践できますが、多様な視点を持つチームで行うとより大きな効果が得られます。インタビュー・観察・ブレインストーミング・プロトタイピングを、チームで協力して進めることで、個人では気づかない洞察が生まれます。

デザイン思考を組織に定着させる鍵は、「安心して失敗できる文化」の醸成です。心理的安全性が高いチームほど、デザイン思考プロセスの恩恵を最大限に受けられます。試作物を批判するのではなく、「何を学べたか」を問う文化がデザイン思考を組織に根づかせます。

研修でデザイン思考を学ぶ

デザイン思考は、ワークショップ形式の研修で学ぶことが最も効果的です。実際に共感・定義・発想・試作・テストの各ステップを体験することで、理論だけでは得られない「感覚」が身につきます。1日研修でも、簡単なテーマでデザイン思考の全プロセスを体験できます。

研修後の実践サポートも重要です。研修で学んだデザイン思考プロセスを実際の業務課題に適用する機会を設けることで、スキルが定着します。アイデア総研では、実際のビジネス課題を題材にしたデザイン思考ワークショップを提供しています。

デザイン思考の落とし穴と対処法

デザイン思考を導入する際にありがちな失敗は、「プロセスを形式的になぞる」ことです。5ステップを儀式的に実行するだけでは、デザイン思考の本質である「人間中心・試行錯誤・学習」は得られません。デザイン思考プロセスはツールではなく、マインドセットの変革です。「ユーザーを深く理解しようとする姿勢」「失敗を恐れず試す姿勢」「正解を決めずに探索し続ける姿勢」——こうしたマインドセットがデザイン思考の核心です。

デザイン思考を深める補助ツールと手法

ユーザーインタビューのコツ

デザイン思考の共感フェーズで最も重要なスキルがユーザーインタビューです。効果的なインタビューには、いくつかのコツがあります。まず、クローズド質問(はい/いいえで答えられる)ではなくオープン質問(自由に答えられる)を使うことが基本です。「この機能を使いますか?」ではなく、「普段どんな場面でこういう問題が起きますか?」と問いかけます。

また、「なぜそう思うのですか?」と掘り下げ続ける「5回のなぜ(Five Whys)」もインタビューで有効です。表面的な回答の背後にある本質的なニーズを探ることが、デザイン思考プロセスにおける共感フェーズの核心です。最初は少し慣れが必要ですが、3回実践すれば自然と身につきます。インタビューを通じて得た生の声は、チーム全員で共有・整理することで次のステップの精度を高めます。

ペルソナとカスタマージャーニーマップの活用

ユーザーインタビューや観察から得た情報を整理するツールとして、「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」があります。ペルソナとは、典型的なユーザー像を具体的な人物像として描いたものです。年齢・職業・生活スタイル・課題・価値観などを詳しく設定することで、チームの議論が「抽象的なユーザー」ではなく「具体的な人物」に向かいます。

カスタマージャーニーマップは、ユーザーがサービスや製品を利用する際の行動・感情・思考の流れを時系列で可視化するツールです。どのタッチポイントでどんな感情が生まれているかを把握することで、改善すべきポイントが明確になります。デザイン思考プロセスの定義フェーズで特に威力を発揮するこのツールは、チームの共通認識を高める上でも非常に有効です。

組織でのデザイン思考文化の育て方

デザイン思考を組織に定着させるためには、一回の研修だけでは不十分です。継続的な実践の場と、失敗を許容する文化の醸成が不可欠です。「デザイン思考ラボ」や「イノベーションチーム」のような専門組織を設けることで、組織的にデザイン思考プロセスを実践し続ける仕組みができます。

また、成功事例だけでなく「どう失敗してどう学んだか」を組織内で共有するストーリーテリングの文化も、デザイン思考の定着を促進します。デザイン思考は一部のクリエイターだけのものではなく、すべてのビジネスパーソンが身につけるべき思考法として、組織全体で取り組む価値があります。

デザイン思考をさらに深めるためのフレームワークとして、「ダブルダイヤモンド」モデルも覚えておくと有用です。ダブルダイヤモンドとは、英国デザイン協会(Design Council)が提唱したモデルで、「問題空間を発散・収束→解決策を発散・収束」という2つのダイヤモンドの形で問題解決のプロセスを表現しています。最初のダイヤモンドで「本当の問題は何か」を探索・定義し、2つ目のダイヤモンドで「解決策のアイデアを展開・絞り込む」という流れです。デザイン思考プロセスをダブルダイヤモンドで可視化することで、チーム全員が今どのフェーズにいるかを共有しやすくなります

デザイン思考は「正解を探す思考法」ではなく「問いを深め続ける思考法」です。人間中心の視点を忘れず、ユーザーへの共感を出発点に置き続けることが、デザイン思考を実践する上での最も大切な姿勢です。どんなに優れたHMWやMVPのテクニックも、根底にある「この人の問題を本当に解決したい」という姿勢なしには意味を成しません。デザイン思考とは技術ではなく態度であり、それが最終的には革新的な製品・サービス・体験を生み出す源泉になります。ぜひ今日からデザイン思考の第一歩を踏み出してみてください。

また、デザイン思考を学ぶ際には「失敗リスト」をつけることをおすすめします。試作・テストの過程で「何がうまくいかなかったか」を記録し続けることで、学習の加速度が増します。失敗リストを持つチームは、同じ間違いを繰り返さず、デザイン思考プロセスを毎回より洗練された形で実践できます。人間中心設計の思想において、失敗は恥ずかしいことではなく、必要不可欠な学習ステップです。失敗を歓迎し積極的に記録・共有する習慣が、デザイン思考文化の根幹をなします。

さらに、デザイン思考はデジタルトランスフォーメーション(DX)との相性も抜群です。DXでは技術の導入が先行しがちですが、デザイン思考の「人間中心」の視点が加わることで、「誰のためのDXか」という本質を見失わずに進められます。デザイン思考プロセスとDXを組み合わせることで、テクノロジーと人間的な価値を両立した真のイノベーションが実現します。企業のDX推進担当者にとっても、デザイン思考は欠かせないスキルセットのひとつになっています。

デザイン思考を実践することで得られる最も大きな変化は、「問題の立て方が変わる」ことです。課題を正しく定義できれば、解決策は自然と湧き出てきます。デザイン思考とは、正解を出す力ではなく、正しい問いを立てる力を磨くプロセスです。この力こそが、AIには代替できない人間固有の強みであり、これからの時代に最も価値を持つスキルのひとつです。

デザイン思考の学習は、書籍・オンライン講座・ワークショップと様々な方法で始められます。まずは1冊、デザイン思考の入門書を読み、次に身近な課題(社内の非効率なプロセスや顧客対応の改善など)でHMWを使った問い立てを試してみましょう。小さな一歩が、やがて組織全体のイノベーション文化を変える大きな動きにつながります。

デザイン思考とはのイメージ

まとめ

いかがでしたか。デザイン思考とは、人間中心の視点で問題を定義し、試作と検証を繰り返しながら革新的な解決策を生み出すプロセスです。共感→定義→発想→試作→テストという5ステップを繰り返し、HMWとMVPという強力なツールを活用することで、変化の激しい時代のビジネス課題に立ち向かえます。

デザイン思考プロセスは特定の業界や部門だけのものではありません。営業・人事・製品開発・教育——どんな領域でも応用できます。まず身近なビジネス課題をテーマに、チームでデザイン思考の一歩を踏み出してみてください。

アイデア総研について

アイデア総研の研修風景
実際の研修・ワークショップの様子

アイデア総研は、デザイン思考・アイデア発想・イノベーション研修など、ビジネス現場で即実践できるワークショップを全国で提供しています。代表の大澤は、ベイブレード(世界累計5億個)・人生銀行・夢見工房の開発者として知られ、5,000人以上への講義実績を持ちます。大阪公立大学・千葉大学・筑波大学・法政大学でも講義を担当し、著書『おもちゃ流企画術』(実業之日本社)も好評発売中です。対面・オンライン・ハイブリッドに対応し、全国どこでも1時間〜6時間のプログラムをご用意しています。デザイン思考の研修についてはお気軽にご相談ください。

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