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エンパシーマップとは|顧客の内面を可視化してアイデアを生む方法

こんにちは、アイデア総研の大澤です。

「うちの商品は品質も高いのに、なぜか顧客に刺さらない」——そんな悩みを抱えるビジネスパーソンは少なくありません。原因のひとつは、顧客の表面的な属性だけを見て、内面の感情や思考を理解できていないことにあります。年齢・性別・購買履歴といったデータを持っていても、「その人が何を感じ、何を恐れ、何を望んでいるか」という内面まで把握しなければ、本当に刺さるアイデアは生まれません。

そのギャップを埋めるために生まれたのが「エンパシーマップ」です。エンパシーマップとは、顧客の感情・思考・行動・課題を視覚的に整理するフレームワークで、デザイン思考の最前線で活用されています。本記事では、エンパシーマップとは何か、その6つの構成要素・作り方・活用シーンをわかりやすく解説します。

エンパシーマップのイメージ

エンパシーマップとは?顧客理解を深める共感のフレームワーク

「エンパシー(共感)」から始まるデザイン思考

エンパシーマップの「エンパシー(Empathy)」とは「共感」を意味します。顧客のデータを外側から眺めるのではなく、顧客の立場に立って内側から世界を体験しようとする姿勢がこのフレームワークの根本にあります。

エンパシーマップは、デザインコンサルタント会社XPLANEのデイブ・グレイ氏が開発しました。もともとはデザイン思考の第一ステップ「共感(Empathize)」を深めるためのツールでしたが、現在ではビジネス戦略・マーケティング・新商品開発・サービス設計など、幅広い場面で活用されています。

エンパシーマップとはシンプルに言えば、「この顧客は何を考え、何を感じ、何を聞き、何を見て、どんな痛みを抱え、何を手に入れたいと思っているのか」を1枚の図に整理するツールです。この一枚を見ることで、チーム全員が同じ顧客像を共有できるようになります。

エンパシーマップが注目されるようになった背景

なぜいま、エンパシーマップとは何かが注目されているのでしょうか。背景には、商品・サービスの「コモディティ化」があります。品質や機能だけで差別化することがますます難しくなった現代では、顧客体験(CX)や感情的価値が競争優位の源泉になっています。

優れたUXデザインを生み出したApple、感動体験で顧客を魅了するディズニー、利用者の気持ちに寄り添ったAirbnb——世界的な成功企業に共通するのは「顧客の内面を徹底的に理解している」点です。エンパシーマップは、この「顧客の内面理解」を誰でも・どんな組織でも実践できるよう体系化したツールです。

スタートアップだけでなく、大企業の商品開発部門・人事部門・カスタマーサービス部門でも採用が広がっており、ビジネスのあらゆる場面でエンパシーマップとはどういうものかを知っておく価値があります。

ペルソナとエンパシーマップの違い

エンパシーマップと混同されがちなのが「ペルソナ」です。ペルソナとは、ターゲット顧客の典型的な人物像をプロフィール形式で記述したもの(例:「35歳・女性・マーケティング職・共働き・趣味はヨガ」)です。

一方、エンパシーマップはその人物が「何を感じ、何を考え、何に困っているか」という内面の感情・思考・課題にフォーカスします。ペルソナが「誰か」を定義するのに対し、エンパシーマップは「その人がどう生きているか」を深掘りするイメージです。

両者は補完関係にあります。ペルソナを先に作成し、そのペルソナを主人公としてエンパシーマップを描くことで、より立体的な顧客理解が実現します。ペルソナだけでは「顔のある人物像」にとどまりますが、エンパシーマップを加えることで「息づかいの聞こえる顧客像」に進化します。

エンパシーマップの6つの構成要素を徹底解説

上部の2要素:THINK&FEELとSEE

エンパシーマップとは通常、中央に顧客(ペルソナ)を置き、その周囲を6つの象限で囲む構造になっています。まず上部の2要素から見ていきましょう。

「THINK & FEEL(考えていること・感じていること)」は、顧客の頭の中にある考えや、心の中に抱いている感情を書き出す象限です。何を大切にしているか、何が心配か、どんな感情を抱いているかを記入します。顧客が口では言わない本音や、潜在的な感情がここに入ります。たとえば「本当は転職したいけど、失敗したら怖い」「この製品を使って恥をかきたくない」といった内なる声です。

「SEE(見ていること)」は、顧客が日常的に目にしている情報・環境・人々を書き出す象限です。どんな広告を目にしているか、周囲の人はどんな人か、どんなSNSを見ているか——顧客が暮らしている「情報環境」を可視化します。同じ商品でも、Z世代がSNSで見る情報と、50代がテレビで見る情報は全く異なります。この違いを意識することがエンパシーマップを活かすカギです。

中部の2要素:HEARとSAY&DO

「HEAR(聞いていること)」は、顧客が周囲から耳にしていることを書き出す象限です。友人・家族・上司・インフルエンサーから何を言われているか、どんな口コミを聞いているか、どんな情報が耳に入ってくるかを記入します。

「HEAR」の象限で重要なのは、顧客に影響を与えているのが誰かを特定することです。若いお母さんをターゲットにした商品であれば、ママ友コミュニティの口コミが購買決定に大きく影響するかもしれません。シニア向けの健康食品なら、かかりつけ医の一言が絶大な効力を持つかもしれません。

「SAY & DO(言っていること・やっていること)」は、顧客が実際に口にしている言葉と行動を書き出す象限です。インタビューで話してくれたこと、SNSに投稿していること、実際の購買行動——観察可能なアウトプットを記入します。この象限は「THINK & FEEL」との矛盾を発見するのにも役立ちます。「言っていることとやっていることが違う」という気づきが、深いインサイトにつながることがあります。

核心の2要素:PAINとGAIN

エンパシーマップとはの核心ともいえる要素が、下部に位置する「PAIN」と「GAIN」です。

「PAIN(痛み・困りごと)」は、顧客が抱えているフラストレーション、恐怖、障壁、リスクを書き出す象限です。「何かをやりたいのにできない理由は何か」「何が顧客を行動から遠ざけているか」を深掘りします。表面的な不満だけでなく、根底にある感情的な恐れや社会的なプレッシャーまで掘り下げることが重要です。

「GAIN(得たいこと・望んでいること)」は、顧客が実現したいこと、手に入れたい成果・感情・経験を書き出す象限です。機能的なニーズ(速い・安い・使いやすい)だけでなく、感情的なニーズ(自信を持ちたい・認められたい・安心したい)や社会的なニーズ(尊敬されたい・仲間に入りたい)まで含めることで、豊かな「GAIN」の象限が完成します。

この「PAIN」と「GAIN」の2つがエンパシーマップの中で最も重要な要素です。顧客の痛みを取り除き、得たいものを手に入れさせることができるアイデアこそが、市場で選ばれる商品・サービスの条件だからです。

エンパシーマップの作り方・実践ステップ

ステップ1:ペルソナ(対象ユーザー)を設定する

エンパシーマップの作り方の第一ステップは、「誰について描くのか」を明確にすることです。ターゲットとなる顧客像(ペルソナ)を設定し、その人物に名前・年齢・職業・家族構成などの基本情報を与えます。

たとえば「田中さん・38歳・男性・中小企業の営業マネージャー・子ども2人・スマホで情報収集する習慣あり」というペルソナを設定したとすれば、このペルソナがエンパシーマップの主人公になります。マップの中央にこのペルソナを置き、6つの象限を埋めていきます。

ペルソナ設定の際に重要なのは、実際の顧客インタビューやアンケートデータをもとにすることです。完全に想像で作ったペルソナでも始められますが、リアルデータに基づいたペルソナほどエンパシーマップの精度が高まります。可能であれば、実際の顧客5〜10人へのインタビューを行ってから取り組みましょう。

ステップ2:6つの象限を実際に埋める

ペルソナが決まったら、設定したペルソナの視点に立って6つの象限を埋めていきます。チームワークショップ形式で行う場合は、付箋を使って各自がアイデアを出し、ホワイトボードや模造紙に貼り付けながら整理するのが効果的です。

各象限を埋めるときの最大のコツは、「自分たちが言いたいこと」ではなく「顧客が実際に感じていること」の視点を保つことです。「こんな顧客像であってほしい」という wishful thinking に陥ると、エンパシーマップの価値が大きく損なわれます。

特に「PAIN」と「GAIN」の象限は時間をかけて丁寧に埋めましょう。「なぜそう感じるのか?」「その背景にある感情は何か?」と「なぜ(why)」を5回繰り返すような深掘りを心がけることで、表面的な課題の奥に潜む本質的なニーズが見えてきます。エンパシーマップとはまさに、この深掘りプロセスを構造化したものです。

ステップ3:チームで共有・議論してインサイトを引き出す

エンパシーマップが完成したら、チーム全員で内容を共有し、議論します。このプロセスこそがエンパシーマップ最大の価値を生み出す場面です。

私がベイブレードを開発していたときのことを思い出します。「すげゴマ」が売れず、次に「バトルトップ」を作ったものの、こちらも苦戦しました。失敗を分析して気づいたのは「1種類しかないから2個目を買う理由がない」という本質的な問題でした。子どもたちが本当に求めていたのは「勝てる達成感」と「友達と自分だけのコマを持てる個性」だったのです。その洞察から「バトルできる」「改造できる」という2要素を組み合わせ、ベイブレードが誕生しました。これはまさに、顧客(子ども)のエンパシーマップを描き直した結果と言えます。

チームで議論することで、「そうか、その顧客はこんな不安も抱えているのか」「この課題はわれわれが思っていたより深刻かもしれない」といった新しいインサイトが生まれます。議論で浮かびあがったインサイトは別途メモし、次のアイデア発想ステップへの橋渡しとして活用しましょう。

エンパシーマップのイメージ

エンパシーマップの活用シーン・具体例

新商品・新サービス開発での活用

エンパシーマップが最も力を発揮するのが、新商品・新サービスの開発フェーズです。開発チームが「自分たちが作りたいもの」ではなく「顧客が本当に欲しいもの」を軸に議論を進めるための羅針盤として機能します。

たとえば、新しいフィットネスアプリを開発する場合を想像してみましょう。エンパシーマップを描くと、ターゲットユーザーのPAINとして「運動を始めても3日坊主になる自分が嫌だ」「SNSに体型を晒すのが恥ずかしい」「パーソナルトレーナーに申し訳なくてサボりにくい」といったリアルな感情が浮かびます。これを踏まえると「続けやすい設計」「プライバシーを守れる記録方法」「自分のペースで進める自律性」がキーフィーチャーになると気づけます。エンパシーマップとはこのように、機能要件の議論を顧客起点に軌道修正するツールとして働きます。

マーケティング・コピーライティングへの活用

エンパシーマップはマーケティングや広告制作にも絶大な効果を発揮します。顧客が「聞いていること」「見ていること」「感じていること」を把握することで、どのチャネルで、どんな言葉を使えば刺さるのかが明確になるからです。

顧客のPAIN(痛み)に直接訴えるキャッチコピー、GAIN(得たいもの)を鮮やかに描くビジュアル——これらはすべてエンパシーマップから導き出せます。「なんとなくターゲット層に向けたメッセージ」ではなく、「このペルソナの心に刺さる言葉」を意識的に選べるようになります。

実際、私が5,000人以上への講義の中でエンパシーマップのワークショップを行うと、マーケター・営業職の参加者から「今まで書いていたコピーが全部ズレていた気がする」という感想をよくいただきます。エンパシーマップとは、そのズレを可視化して修正するための強力なツールです。

カスタマーサービス改善への活用

既存サービスのカスタマーサービス改善にもエンパシーマップは有効です。問い合わせ対応・クレーム分析・NPSスコア改善など、顧客接点の質を高めたい場面で役立ちます。

特に「PAIN」の象限を深掘りすることで、顧客が問い合わせする前から感じているフラストレーションや不安が明らかになります。ECサイトのサポート改善を考える際にエンパシーマップを使うと、「注文後の発送通知が遅いと不安になる」「返品手続きが複雑で結局諦めた」「チャットボットが的外れな回答を繰り返してストレスが溜まる」といった本質的な課題が浮かびます。これを基に改善策を立案すると、的外れな施策を回避できます。

エンパシーマップをアイデア発想に活かす実践テクニック

HMW(How Might We)質問との組み合わせ

エンパシーマップで顧客の「PAIN」と「GAIN」が明確になったら、そこからアイデア発想につなげるための橋渡し手法が「HMW(How Might We=どうすれば〜できるか)」質問です。

たとえばエンパシーマップで「顧客は運動を始めたいけど続かないことを恐れている」というPAINが明らかになったとします。これを受けて「どうすれば顧客が無理なく続けられる運動習慣を作れるだろうか?」というHMW質問を立て、そこからアイデアを発散させます。

この組み合わせは非常に強力です。エンパシーマップが「顧客の内面から来るリアルな課題設定」を担い、HMW質問が「アイデアの自由な発散」を促すブリッジ役を果たします。「何のための課題か」が明確なので、発散したアイデアも顧客価値に直結したものになりやすいという特徴があります。私のワークショップでもこの組み合わせは反応が非常によく、「エンパシーマップとはアイデア発想の起点なんだ」と気づいてもらえる瞬間が多くあります。

カスタマージャーニーマップとの連携

エンパシーマップと相性のよいツールが「カスタマージャーニーマップ」です。カスタマージャーニーマップが顧客の行動・感情を「時系列」で追うのに対して、エンパシーマップは顧客の内面を「深さ」で掘り下げます。

両者を組み合わせることで、「顧客の旅のどの時点で、どんな感情・思考が生まれているか」を立体的に把握できます。特に、カスタマージャーニーの中で感情がネガティブになるポイント(Pain Points)を特定した後、そこをエンパシーマップでさらに深掘りするフローが効果的です。この手法を使うと、「このタイミングで顧客に何が起きているか」が克明にわかり、ピンポイントで改善施策を打てるようになります。

デジタルツールを活用したリモートでのエンパシーマップ

リモートワークが普及した現在、エンパシーマップをオンラインで作成するケースが増えています。Miro・FigJam・Mural といったオンラインホワイトボードツールを使えば、チームが物理的に離れていても共同でエンパシーマップを作成・共有できます。

これらのツールにはエンパシーマップのテンプレートが用意されていることが多く、初めて取り組む方でもすぐに始められます。付箋のデジタル版を使って意見を貼り付ける感覚でワークショップができるため、対面と遜色ないコラボレーションが実現します。リモートでのエンパシーマップワークショップを成功させるコツは、事前に参加者へ顧客インタビュー動画や調査レポートを共有しておき、議論の土台を揃えておくことです。

エンパシーマップのイメージ

まとめ

いかがでしたか。エンパシーマップとは、顧客の感情・思考・行動・課題を「THINK&FEEL」「SEE」「HEAR」「SAY&DO」「PAIN」「GAIN」の6つの象限で可視化するフレームワークです。

エンパシーマップを活用することで、表面的なデータだけでは見えなかった顧客の内面が浮かび上がり、よりユーザーに刺さる商品・サービス・マーケティングを生み出すことができます。ポイントをまとめると以下のとおりです。

  • エンパシーマップとはデザイン思考の「共感」ステップを支えるフレームワークであり、顧客の内面を6象限で整理する
  • ペルソナと組み合わせることで精度が高まる
  • 実際の顧客インタビュー・リサーチデータをもとに作ることが重要
  • チームで共有・議論することで新しいインサイトが生まれる
  • HMW質問やカスタマージャーニーマップと組み合わせるとアイデア発想力がさらに高まる
  • デジタルツールを使えばリモート環境でも実施可能

エンパシーマップは難しそうに見えて、実はすぐに始められるシンプルなツールです。まずは紙1枚と付箋で試してみてください。これまで気づかなかった顧客の声が、きっと聞こえてくるはずです。

アイデア総研について

アイデア総研の研修風景
実際の研修・ワークショップの様子

アイデア総研は、エンパシーマップをはじめとするデザイン思考・アイデア発想のフレームワークを体験的に学べる研修・ワークショップを提供しています。代表の大澤は、世界累計5億個を超えるベイブレード・人生銀行・夢見工房などのヒット商品の開発者であり、大阪公立大学・千葉大学・筑波大学・法政大学での講義実績を持ちます。これまで5,000人以上にアイデア発想の考え方と手法をお伝えしてきました。著書に『おもちゃ流企画術』(実業之日本社)があります。対面・オンライン・ハイブリッドいずれにも対応しており、全国どこへでも出張可能。1時間から6時間まで柔軟にご対応しています。エンパシーマップを活用したアイデア発想研修にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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