こんにちは、アイデア総研の大澤です。
2016年5月、Google社の開発した囲碁用の人工知能(AI)「アルファ碁」が、世界最強と目されるプロ棋士・柯潔九段(か・けつ、19歳)に3戦全勝と圧倒したことが話題になりました。
囲碁は”もっとも難易度の高い知的ゲーム”といわれており、そのジャンルで人類最強の頭脳がAIに全く歯が立たなかったというニュースは、近い将来AIが人類にとって脅威になるのではないか?という漠然とした不安をかきたてるのに十分なものでした。
近年AIの進化が話題になるたびに、AIが人の仕事を”奪う”可能性がたびたび論じられています。
その中で近い将来奪われる可能性の高いとされる職業や、逆にAIでは奪うことのできない職業についてもさまざまな議論が交わされています。
ではAIにとって苦手とされるクリエイティブな分野では、人の仕事が奪われることはないのでしょうか。
今回は、クリエイティブ職が将来AIに仕事を奪われる可能性について考えてみたいと思います。
AIの進化と”シンギュラリティ”
AIの進化について語られる中でしきりに”シンギュラリティ”ということばが出てきますが、これが何であるかを理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
技術的特異点、またはシンギュラリティ(Singularity)とは、人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事。人類が人工知能と融合し、人類の進化が特異点(成長曲線が無限大になる点)に到達すること。
引用元:Wikipedia
人工知能の進化が人類の頭脳を凌駕するポイントが”シンギュラリティ”であり、その後は人工知能がより賢い人工知能を生み出すサイクルがはじまるといわれています。
人工知能の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏はシンギュラリティが2045年ごろに実現するだろうと予測しており、それによって引き起こされるであろう社会の変化を”2045年問題”と言ったりします。
現時点ではシンギュラリティ後になにが起こるかは完全に予測されていませんが、おそらく産業革命や情報革命以上の大きな社会的変化が起こるだろうといわれています。
カーツワイル氏は最終的には人間の頭脳をデジタル化し、意識そのものをコンピューターにインストールすることが可能になると予言しており、まさに映画「マトリックス」のような世界がほんの数十年後に待ち受けているのかもしれません。
そして、2045年を待たずして、すでに人工知能による社会的変化は少しずつ起きはじめているのです。
人工知能が”奪う”仕事
シンギュラリティを待つまでもなく、進化を続ける人工知能は確実に人間社会に浸透しつつあります。
オックスフォード大学が2013年に発表した論文は、今後10~20年のあいだに47%の仕事が機械(AI)に取って代わられる可能性があると予測しています。
すでに現時点でも、ユーザーサポートや人材のマッチングサービスなどの分野で人工知能が活用されており、今後も活躍の分野は増えていくと考えられます。
週刊ダイヤモンドでは、今後機械や人工知能に”奪われる”可能性の高い職業・仕事のランキングを次のように予想しています。
機械が奪う職業・仕事ランキング(米国)
- 小売店販売員
- 会計士
- 一番事務員
- セールスマン
- 一般秘書
- 飲食カウンター接客係
- 商店レジ打ち係や切符販売員
- 箱詰め積み降ろしなどの作業員
- 帳簿係などの金融取引記録保全員
- 大型トラック・ローリー車の運転手
- コールセンター案内係
- 乗用車・タクシー・バンの運転手
- 中央官庁職員など上級公務員
- 調理人(料理人の下で働く人)
- ビル管理人
- 建物の簡単な修理・補修係
- 手作業による組立工
- 幹部・役員の秘書
- 機械工具の調整を行う機械工
- 在庫管理事務員
引用元:ダイヤモンドオンライン
これらの予想は米国社会を想定したものではありますが、日本においてもほぼ同様な結果が起こると考えられます。
決まりきったルーチンの作業では人は機械や人工知能に到底及びませんので、この結果は妥当性があるように感じます。
またランキングには入っていませんが、弁護士や裁判官・医師などの高度な知識を必要とする専門職もまた、遠からず人工知能にとってかわられる可能性があります。
実際にIBMの人工知能ワトソンは膨大な医学論文を機械学習し、白血病患者の適切な治療法を発見したことが話題になりました。
過去の莫大な論文や事例を一人の人間がすべて把握することは不可能ですが、人工知能であればそれが一瞬でできてしまうのです。
その結果、人工知能は一流の専門職が到達できないレベルの深い洞察を発揮しうるのです。
このことからも、将来的に人工知能が奪う可能性のある職種は想像以上に多いことがわかります。
では反対に、どんな職業が人工知能の進化から生き残ることができるのでしょうか。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授によると、将来コンピューター化される確率が低い職業として「セラピスト」「カウンセラー」「アドバイザー」などの対人コミュニケーション能力が必要な職業とならび、「画家」「作家」「彫刻家」「ミュージシャン」「ファッションデザイナー」などのクリエイティブ職をあげています。
人の心や感性に訴える”創造性”を要求される職業は、人工知能に置き換えるのが難しいと考えられています。
しかし一方で、人工知能とってに苦手分野である創造活動を行わせるという試みも、世界中で行われているのです。
人工知能のクリエイティビティ
驚くべきことに、創造性を必要とする分野においても、人工知能は私たちの想像以上の成果を出しつつあります。
そのなかの孝部をご紹介したいと思います。
人工知能による作曲
まずは人工知能の生み出した楽曲をご紹介します。
まずはSony CSL Research Laboratoryが人工知能を使って作曲したポップソング「Daddy’s Car」をお聴きください。
なんとなく聞き覚えのあるようなメロディですが、こちらは人工知能に1万曲以上の楽曲を学習させたうえで「ビートルズ調の曲を作れ」というオーダーを行って作曲されました。
実際には作詞や編曲の段階で人間のミュージシャンの手がかけられはいますが、プロミュージシャンが作ったものと全く遜色のない楽曲に仕上がっています。
ポップソングよりも複雑な構成のジャズにおいても、人工知能での楽曲作成が行われています。
「deepjazz」はプログラマーのJi-Sung Kim氏が作成した、人工知能によるジャズの自動作成ジェネレーターです。
「deepjazz」は人工知能が膨大な数のジャズの楽曲を機械学習し、自動的にジャズ調の曲を生成します。
soundcloud上に 「deepjazz」が作曲した楽曲がアップされています。
一番下に基になったジャズギタリストのパット・セメニーによる楽曲が収録されていますので、人工知能の楽曲と比較してみてください。
人工知能の楽曲は原曲と比較して洗練さでは劣りますが、独特のリズムを感じる印象的な出来となっています。
人工知能による映像作成
IBMのワトソンは自然言語を理解・学習し人間の意思決定を支援することを得意とした人工知能(IBMはコグニティブ・コンピューティング・システムと呼んでいます)ですが、クリエイティブな分野での可能性を試す実験も行われています。
このワトソンを使って映画「Morgan」の予告編を作るというプロジェクトでは、ワトソンに映画1,000本分の予告編を”学習”させ、編集の方法を学ばせるというプロセスをとりました。
その結果ワトソンが作成した動画がこちらです。
出来上がりには賛否両論あるようですが、少なくとも素人目には映像として成り立っているように感じます。
少なくとも映像制作の経験が無い人間よりははるかにうまく編集しているといえるでしょう。
またこれとは別に、人工知能によるホラー映画作成プロジェクトがクラウドファンディングで実施されています。
こちらでは、人工知能に何千本ものホラー映画を興行収入と関連付けながら学習することで、より観客に”ウケる”ホラー映画を作らるという手法をとっています。
その結果作られたのが「Impossible Things」です。
映像は予告編のため短編ですが、資金調達に成功し実際に映画化が決定しているようです。
人工知能に面白いものと面白くないものを学ばせるために、興行収入という指標を使っているところがユニークです。
実際に上映されたときに興行収入がどうなるのか、非常に興味深いところです。
人工知能による絵画
Googleは人工知能「DeepDream」のプログラムを公開しており、だれでも自由にDeepDreamを用いた絵画作品が作れるようになっています。
「DeepDream」は悪夢のような映像を生み出すといわれており、ネット上にはDeepDreamによって生み出されたちょっとグロテスクな作品がたくさん公開されています。
Don’t eat before bed. #spaghetti #deepdream pic.twitter.com/FCyrXUDrN8
— Thorne Brandt (@thornebrandt) 2015年7月4日
I’m just so excited that the future as told by AI is… dogs everywhere #deepdream pic.twitter.com/FTRPyabVb8
— Ian ミ (@ianbach) 2015年7月2日
#deepdream hokusai pic.twitter.com/SOnMRpHDWA
— samim (@samim) 2015年7月3日
基本的にもとの画像を変換しているだけですのでオリジナリティという点では人間にかないませんが、将来的に”何か新しいもの”を生み出しそうな可能性を感じます。
このようにさまざまなクリエイティブな分野で人工知能の可能性が試されています。
現時点では物珍しさや”人工知能の割にはうまくできている”というレベルにとどまっているものが大半ですが、人工知能の急速な進化のスピードから考えれば、数年後には人間の作成したものとまったく遜色のないものを生み出せるようになるでしょう。
そしてその先には、私たち人間には生み出せないような”未知の創造物”が誕生するかもしれません。
生き残るクリエイターと淘汰されるクリエイター
もしこのまま人工知能が進歩して人間と遜色の無い創造性を発揮できるようになったら、人間のクリエイティブ職は淘汰されてしまうのでしょうか。
人工知能はプログラムさえあれば一瞬で多くの作品を生成可能ですので、「作成コスト削減」という経済的な側面で企業にとってメリットがあります。
人間のクリエイターに作品を作らせる場合、ものにもよりますが数万円から数百万・数千万というコストが発生しますので、人工知能によって遜色の無い作品が安価に作成できるのであれば、多くの企業が利用することになるはずです。
その結果、確実に職を失うクリエイターが出てくることでしょう。
しかしその反面、人工知能にとって変わられないクリエイターも存在します。
たとえばあなたがあるミュージシャンのファンであったとします。
あなたは当然そのミュージシャンの作った楽曲が好きだと思いますが、同時にそのミュージシャンのルックス、性格、ファッション、発言、生き様などにも好意を持っていることでしょう。
多くの音楽ファンが高い金額を払ってライブを見に行くのは、ただ単に演奏を聴くだけではなく、そのミュージシャン自身に会いにいけるという側面が大きいはずです。
小説やマンガ、映画などであっても同様です。
作品を鑑賞する上で、誰が描いたか・誰が作ったかという点が、その作品に対するあなたの評価に大きく影響しているはずです。
人間の持つパーソナリティや生き様は人工知能には表現できませんので、自身の”ファン”を持つクリエイターは人工知能に取って代わられることはないでしょう。
クリエイターが生き残るためには?
日本の電機メーカーが世界市場で中国や台湾のメーカーに淘汰されてしまった原因として、家電自体が”コモディティ化”してしまったことあげられます。
コモディティ化とは、その商品自体が個性による差別化を失ってしまい、ユーザーにとってどの商品を選んでも差がなくなってしまう状態を指します。
かつての日本製の家電は品質や機能において圧倒的な差別化を行ってきましたが、現在では機能的な差別化が困難になってきた結果、価格競争に陥ってしまい日本のメーカーは競争力を失ってしまっていました。
クリエイティブ職においても、すでにコモディティ化は進行しています。
インターネットの普及にともなうクラウドソーシングの発展より、企業側は多くの選択肢の中から容易にクリエイターを選択できるようになりました。
また、あらゆる分野でクリエイティブ職の開発環境が扱いやすいものになってきたため、プロとアマチュアの垣根は年々無くなりつつあります。
その結果、企業側はクリエイターを質よりも価格、つまり賃金で選ぶようになります。
もしそれらの選択肢の中にに人工知能が入ってきたら、まず同じ土俵にいる人間のクリエイターでは太刀打ちができなくなるでしょう。
最終的に生き残ることができるのは、その人だけのスペシャリティを持つ特異な人材、つまり”顔のあるクリエイター”です。
仕事をする中で自分自身の個性を前面に押し出し”顔”を見せていくことで、コモディティ化から脱却することができます。
作品とパーソナリティの両方を前面に押し出し、自身のファンを獲得することができれば、決して人工知能にとって変わられることのない唯一無二のクリエイターとなることができるでしょう。
もしあなたがクリエイティブの分野で今後も活躍したいと考えるのであれば、今から脱コモディティ化を目指してあなた自身のファンをできるだけ多く獲得するようにしていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
人工知能の進化は目覚しいスピードで起きており、シンギュラリティの時期も2045年ではなく2040年とも2030年とも言われています。
おそらくこのブログを読んでいる多くの方にとっては、現役世代の間に起こる現実的な問題となることでしょう。
そもそも人間と人工知能は敵対するものはないので、仕事を”奪う”という表現自体が正しくないかもしれません。
今後は、人間がやるべき仕事と人工知能がやるべき仕事に二分されると考えたほうが適切でしょう。
そしてその結果、今の社会には無い新しいクリエイティブ職がいくつも生まれてくるかもしれません。
大きな変化は同時にチャンスでもあります。
いち早く変化に対応し、新しい時代を生き抜くクリエイターを目指しましょう。
引用元:ダイヤモンドオンライン・Gigazine
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